12期は富田武君の執筆した「日ソ戦争1945年8月~棄てられた兵士と居留民」を紹介します。
この本は昨年7月にみすず書房から発刊されました。その帯には「触れたくない敗戦史ゆえに放置されてきた日ソ戦争(1945.8.9-9.2)の戦闘の詳細と全体像はいかなるものであったか。敗戦後75年目に初めて明らかになる真実。」と記されています。戦略的発想と政治的駆引の能力に乏しかった日本の戦争指導者たちが招いた、兵士と民間人への悲惨な戦争の結果が描かれています。
本文は「1. 戦争前史 -- ヤルタからポツダムまで」、「2. 日ソ八月戦争」、「3. 戦後への重い遺産」の3章構成になっていていますが、中心は第2章の事実経過です。この章では、最近機密解除されたロシアの文献を参照・引用し、それを日本の記録と対比させて「1. ソ連軍の満州侵攻と関東軍」、「2. ソ連軍による満州での蛮行」、「3. 捕虜の抑留から移送へ」という節構成で客観的に分析考察されています。
特に戦争の残虐さと悲惨さを感じさせられるのは、第2節の「ソ連軍による満州での蛮行」で、読むのが辛い記述が続きます。「麻山事件」、「葛根廟事件」、「佐渡開拓団跡事件」などの項では、ソ連軍による無慈悲で残酷な民間人の大量虐殺が記されています。それのみならず、「沖縄にならえ」とばかりに関東軍兵士による集団玉砕、集団自決が強行され、日本人兵士が、従わない民間日本人を殺害する状況が記されています。このような状況を知るだけで、戦争は決して繰り返してはならないと考えさせられます。
著書中のコラムに、レイテで自決した大伯父と、シベリアに抑留されたもう一人の大伯父の消息が述べられています。富田君が本書を執筆した背景には、この二人の大伯父の存在が大きいと思われます。
著者の富田君と私は山岳部の山仲間です。12期山岳部員の母親は、我々が中学の時に「ふもと会」というグループを結成して情報交換しました。母親仲間で蓑毛からヤビツ峠を越えて栄光ヒュッテまで行ったこともありました。そのリーダーが富田君のお母様の富田冨佐子さんで、二人の大伯父は彼女の伯父でした。
ふもと会が栄光ヒュッテを訪れた際の写真を掲載しますが、天狗さんと堀先生に挟まれた後列中央が富田冨佐子さんです。写真の皆さまは既に他界されていますが、ふもと会メンバーの母親の方々には、生死をさまよった敗戦の前後に、我々を生んでくれたことを感謝せざるを得ません。その後の平和な世の中で、後期高齢者まで生きてこられたことをつくづく幸福に思います。
大野 邦夫 (12期)