寄稿・投稿51期、この1冊

近年、細胞農業と呼ばれる、従来動物や植物を育てて得ていた農畜産物を、特定の細胞を培養することによって得る形態の農業への注目が高まっている。2050年には97億人に達すると推計されている世界人口の増加1や、経済発展に伴う新興国での食嗜好の変化によって肉類の消費は2000~2030年の間に約70%、さらに2050年までの間に20%増加すると予測されている2。一方、従来型の家畜生産方式は大量の穀物及びそれを育てるための水を投入することによって支えられており、牛肉1Kgの生産には20トンもの水が必要とされている3。またこれらの飼料を生産したり家畜を放牧したりするために土地も必要となる。そのため、肉需要の増大は水資源の枯渇や森林破壊といった問題を引き起こしている。加えて肉類の需要拡大に供給が追い付かず世界中でタンパク質不足が起きるという危機が、早くて2025~2030年におこると予測されている4
この問題に対し、植物由来の代替肉や藻類の活用、昆虫食など、新しい形態でタンパク質を生産することで解決しようとする取り組みが世界中で行われている。その中で51期の羽生くんは、筋細胞といった可食部の細胞を組織培養することで肉を生産する培養肉のアプローチでこの問題に取り組んでおり、培養肉への取り組みのすそ野を広げるためのコミュニティであるShojinmeat5と、培養肉生産を産業的に成り立たせることを目的とした企業のIntegriCulture6という2つの組織の代表を務めている。今回は前者のメンバーの成果を収録した本である「細胞農業通信」を紹介する。
本書に収録された記事は、培養肉生産を特別な設備がなくても安価に実現するための様々な実験結果や、培養肉が普及した場合の産業構造の変化に関する考察、培養肉が文化的、宗教的に受け入れられるかといったことや既存の概念との整合性に関する調査結果など、様々な事柄が題材として取り上げられている。いずれの題材も培養肉を一般に普及させ、流通させているために重要なものであり、培養肉について知らない方は本書を読んで一緒に考えてみるべきと考える。また、当該コミュニティに参加しているメンバーには高校、大学生といった若いメンバーも多く、実験環境も家庭内というものが多数見られた。このような活動は近年のDIYバイオの潮流や情報科学分野におけるユーザ会との類似性を感じ、当該コミュニティの活動の成果が将来の培養肉産業に活かされる可能性を感じた。
なお、本書は同人誌という形態で刊行されており、一般の書店で入手することはできない。しかしメロンブックスといった同人誌を扱う書店やそのオンラインショップ7などで入手が可能である。本稿を読んで細胞農業に興味を持った方はぜひ購入して読んでみることをお勧めする。

石田 明久 (51期)

細胞農業通信、羽生雄毅共著