﨑川修氏(37期)著書『他者と沈黙 〜ウィトゲンシュタインからケアの哲学へ』(晃洋書房)のご紹介。
﨑川氏は上智大学で哲学を学び、現在はノートルダム清心女子大学で教鞭をとっておられる、現代哲学、人間学、キリスト教倫理専門の哲学者・教育者です。
この本は﨑川氏のこれまで20年の研究の集大成として昨年上梓されました。
以下、﨑川氏のメッセージです。
“コロナ禍は私たちの生活を一変させました。いのちの切迫した危機が声高に語られる一方で、それを守るために必要な「距離」は、当たり前の日常を変質させ、日々のくらしを支える様々な「ケア」の営みもまた危機に晒され続けています。
距離に隔てられる中で、私たちはメディアを通じて「言葉」「表現」を伝えあい、そこに新たなケアの可能性を求めてきたとも言えます。しかしまた「言葉」は人を傷つけ、あらたな距離を生み出す危険性も秘めています。新たな危機の時代に必要な「ケアの眼差し」は、瞬時にひろがる「共感の言葉」よりも、むしろ時間をかけた「距離の静けさ」の中で、醸成されるのではないか、そしてそれが私たちの傷ついた日常を再生させてくれるのではないかと、私は考えています。
本書では「沈黙」をキーワードとして、二つの大戦の時代、苦悩の中を生き抜いたウィトゲンシュタインの哲学を読み解きつつ、人生における様々な悲嘆(グリーフ)に向き合う言葉とケアのあり方を論じました。哲学に関心をお持ちの方、また「死生学」や「グリーフケア」に関心をお持ちの方、ぜひお手にとっていただけたら幸いです。”
ちなみに装丁は、同期でデザイナーの私川村がデザインさせていただきました。本を手に取った時にヴィジュアルや触感で何かを感じてもらえるよう、パール系用紙や半透明素材を用いて、透明感や神秘性、空間や奥行きを感じるさせるデザインで表現しました。建築設計にも携わったウィトゲンシュタインの、厳密な数値を用いたデザインを引用した矩形をキービジュアルに、表紙カバーをはずすとネタが判明する仕掛けが施されています。
高校生の時、栄光祭で販売する彼と仲間たちの文芸同人誌の、表紙をデザインしたことがありましたが、それ以来35年ぶりのコラボとなり感慨もひとしおでした。
“言葉によって世界に触れ、〈沈黙〉を聴くことで、他者に出会う。
死と再生の経験を照らす、ケアの眼差しへ。
〜ウィトゲンシュタインの哲学を起点に、その独特の言語観を「他者」との関係性から論じつつ、私たち人間の生の在り様とその行方を探求する。”
川村 貞知 (37期)