寄稿・投稿28期、この1冊

あるスポーツライターがこんなことを書いています。
「アメリカ発の野球やアメリカンフットボールは実際にプレーしている時間は1試合あたり20~30分程度しかない。一方、欧州発のサッカーやラグビーは、試合が始まるとハーフタイムを除いてあまり途切れることがない。両者は観戦のスタイルが大きく異なり、アメリカ発は見る者にピッチャーが次に投げる球種や監督の次の一手など想像を巡らせる時間を与えてくれる」
この分類に従えば、バスケットボールはアメリカ発のスポーツとしてはやや異色かもしれません。監督やコーチがベンチから大声で指示することはできるものの、試合の流れを左右するのは、あくまでもコートを動き回る選手の瞬時の判断です。だからこそ一瞬のスキが逆転を許すスリリングな展開から目を離せないわけですが、野球などに比べて選手の心理状態を外から読み取ることが難しいとも言えます。
バスケ漫画の金字塔『スラムダンク』(井上雄彦作)は、主人公の桜木花道はじめ選手や周囲の気持ちの動きをつぶさに描いた作品として知られますが、読者はやはりバスケ好きに偏りがち。それではもったいない、その魅力をもっと多くの人に伝えたい…。そんな想いがあふれ出して一冊の本になったのが、今回ご紹介する『スラムダンク勝利学』です。
第一章「根性は正しく使う」を著者の辻秀一さん(28期)は次のように書き出します。
「『スラムダンク』はきわめて奥が深く、バスケットボールを超えたスポーツ指導書、さらには人生の哲学書といっても過言ではありません。しかし、何気なく展開されているため、そのメッセージをくみ取るのは大変です」
辻さんは中学・高校時代を通じてバスケ部で活躍、卒業後もスポーツドクターとして様々な競技のアスリートと親交を深めてきました。2004年にはバスケのプロチーム「東京エクセレンス」を立ち上げています。『スラムダンク』から「勝利するための考え方」「学ぶべき考え方」を読み取り、広く伝える仕事は、まさに「はまり役」と言っていいでしょう。
かつて辻さんのブログに紹介されていましたが、なでしこジャパンの守備の要、岩清水梓選手は本書を愛読されていたようです。2015年の東スポのウェブサイトから引用します。
「(『スラムダンク勝利学』は)私の教科書。迷ったり、もやもやしたときに、この本の中の言葉を思い出して集中している。カナダにも持っていく」
別のサイトのブックレビュー欄には、こんな一般の読者のコメントも載っています。
「もっとも印象に残ったのは、今に集中するということの大切さについて。未来を心配し、過去を後悔することが、不安を生み出し実力を発揮できなくなるということ。さらなる高みを目指すには今に集中して、全力を尽くすことと、情熱を持つこと、日頃からその心の習慣を身につけるようにしたい」
岩清水選手のようなアスリートではない人々にも『スラムダンク勝利学』が刺さるのはなぜでしょうか。こんな一節にヒントがありそうです。
「バスケットボールはハビット(習慣性)・スポーツといわれる代表的な競技です。習慣化するほど練習したことが、やっと試合で発揮できるのです」
この場合の練習の成果とは、スポーツだけでなく、顧客を相手にしたプレゼンテーションなど心や頭を動かす仕事全般に当てはまります。「日頃の意識をスタート地点としてセルフイメージを高める」。実力を発揮するためのこんな王道を漫画のシーンを織り交ぜながら教えてくれる『スラムダンク勝利学』は、特に若い皆さんにお勧めしたい同期の一冊です。

藤野 啓介 (28期)

スラムダンク勝利学、辻秀一著