寄稿・投稿著した本について

『人間生活のパラダイム』(楡出版)は文化と生活、神話の世界、言葉、数などを記している。
希神話と日本神話を較べてみると共に末子相続であり、三神が海、天、冥界を別々に支配する、冥界に行った女神を連れ戻すのに失敗する、怪物を退治して助けた娘を妻にする、冥界の食物を口にした為地上に戻れない、小麦や稲を与えられた子が地上に広める、など多くの類似点が認められる。
三種の神器はスキタイや高句麗神話にもある。神器は王権の象徴であり、祭司、戦士および食糧生産者の農民を表している。この三者を統率する者が王となる。
日本では、鏡は太陽神である天照を表し、天界を治め天皇の祖神とされる。剣は須佐之男が八俣大蛇(ヤマタノオロチ)から得た叢雲(ムラクモ)の剣である。勾玉は記の一書に「御頸珠(ミクビタマ)の名を御倉板挙之(ミクラタナノ)神と謂う」とあり、稲魂(イナダマ)として食物神を示している。
勾玉は半島由来のものであり、犬歯の形を模したとも考えられ、狩猟民族では狩りの獲物の標とされていた。
古代、国を統括する者は神の意思を知るために祭司の助けを借りた。食の生産者の農民、そして国を護る軍人の三者を治める者が王であった。
ルネッサンス期になると、商人が新たな力をもつ者として興ってきた。商人を加えた4つの階級は、遊具や占い具のタロットに用いられ、各標として剣、杯、金貨、木の枝が用いられた。タロットは14世紀に伊で生まれた。4種の札は伊coppa(杯)、spada(剣)、oro(金貨)、bastone(棍棒:コンボウ)である。杯は神を祀る聖杯であり、棍棒は三叉の木の枝が描かれている。農民は木の枝で地に穴を開けて種を蒔いていた。
やがてタロットよりトランプが生まれた。4種の標は英ではspade(鋤)、diamond、heart、club(棒)である。金貨より価値のあるダイヤに、聖杯は心に変わった。
spadeの原義は「刃をもつもの」であり、トランプでは元の剣から変形している。古いトランプの図ではclubは三叉の棒に近い形が描かれている。
言葉は時と共に変化する。蘭語のmatroos(マトロース:船員)はマドロスに、梵語のvaidurya(バイドゥーリャ)は吠瑠璃(ベイルリ)を経て瑠璃(ルリ)に、西語のmedas(メディアス)はメリアスとして借用された。d音とrやl音は調音上転化することがある。希語のδακρμογ(ダクリュオン:涙)は羅語ではlacrima(ラクリマ:涙)となり、英語ではlachrymal(涙の)となった。
日本人はrとlの区別が難しいとされる。英語の魔力、魅力を示すglamorの古形はglammarであり、18世紀スコットランドでglammar「文字を書くこと」の語より生じた。文字を書くことは魅力的なのでglammar、glamor「魅力」が生じたのである。Grammar「文法」は希語のγραμμα(グランマ)に由来している。
lとrの転化の例としては羅、仏、伊で瓶、筒はflāsco、flasque、fiascoであるが、西、葡では共にfrascoである。危険を示す語は羅、仏、伊、葡ではperīculum、peril、periglio、perigoであるが、西ではpeligroである。
白いを示す語の男性形は羅、仏、伊、西でalbus、blanc、bianco、blancoであるが、葡ではbrancoである。平らなもの、皿は希、羅、仏、伊、西、独、英、レトロマンス語でπλατοs(プラートス)、plānus、plat、piatto、plato、Platte、plate、platであるが、葡ではpratoである。
人の手足の指は10本づつなので、一般に10進法が用いられている。二進法はコンピュータに用いられるが、他の進法は余り馴染みがない。
5進法では4+3=12,6進法では5+4=13となる。乗法では5進法が3×3=14、6進法では4×4=24となる。少し戸惑うが頭の体操に良いと思う。
11進法以上では新たな数字を考える必要がある。
10進法より12進法の方が約数が多いので便利である。昔は12個を一組にしたdazen(ダース:打)が使われ、卵や鉛筆は12個が一組であった。
123・・・・・90をアラビア数字と称しているが、回教徒の国で使う数字は異なり、 123・・・・・90は「١٢٣٤٥٦٧٨٩٠」でお札の「٥٠」は50を表している。1と9だけが我々の使う数字と似ているだけである。
メートル法は仏で考案され、希のμϵτροϒ (メトロン:測定)に因む語である。
メートル法の単位は基準が明確であり、10進法を用いるので、計算し易い特徴がある。
今は10の24乗(yotta:ヨッタ)から10のマイナス24乗(yocto:ヨクト)まで、量の大小を表す接頭語が考案されているので、極大から極小までの量を示すのに、不便は生じない。
長い間用いられていたメートル法の原器も、近年すべて各種の物理量に代わってしまった。因みに原器に用いられたイリジウムは希少元素であり、日本では殆ど存在していないが、私の住む北海道の十勝に、隕石由来のイリジウムを含む地層が存在している。

『左右・みぎひだり』(学燈社:共著)は右、左について論じている。
9割の人は右手優位なので、器具の多くは右手で使い易くなっている。自動改札、自販機をはじめ、ガスレンジ、ラジオ、カメラ、ミシン、パソコン、キーボード、オーブン、缶切り、急須、グローブ、ミット、クラブ、琴、バイオリン、ティーカップの絵柄などが右手向きになっている。和食では飯は左、汁物は右に置かれ、左利きの人には食べ難いと思われる。
羅語dexterは「右手の」と「幸福の」意があり、sinisterは「左の」と「悪い、不吉な」の意を持つ。希語δεξίος(デキシオス)は「右、幸運」であり、λαίος(ライオス)は「左、価値の低い」の意を存する。英、仏、西、葡、伊、独語right、droit、derecha、direita、destra、Rechtは右と共に幸せの意があり、左を示す各語は不幸の意を持っている。
記の神話ではイザナキは天御柱(アマノミハシラ)を左より、イザナミは右より廻って国生みをした。又イザナキは禊(ミソギ)により左目より天照を、右目より月読を生じたが、天照は天界に在り、皇祖神とされている。
古代律令制では左大臣は右大臣の上位にあり、太政官の大・中・小の弁官も左の弁官が右の弁官より上位であった。
中国では時代により異なり、戦国時代は右が上位であったので左遷の語が生まれた。
前漢では左優位であり、味方する時には左袒(サタン)の語が用いられた。
左利きの語は金鉱の堀手が左手に鑿(ノミ)を持ったのが、吞み手に掛けて酒好きの人を表した。左前は死者の装束とされ、破産の意もある。中国では左前の服装を左衽(サジン)と称し、夷狄(イテキ)の習俗としていた。
雛人形は京雛では、男雛は段上よりみて左側にある。関東では右にあるが、これは14代家茂に降嫁した皇女和宮と関わりがあると思われる。
「左近の桜、右近の橘」の語は紫宸殿の東に桜、西に橘が植えてあることによる。これは天皇から見ての右と左であり、臣下から見ると逆方向になる。

『食品学総論』『食品学名論』(三共出版:共著)内容は類書とほぼ同じである。
私は言語学も専門にしているので、氷、糖質の語源の解説をし、更に字については食前、食中、食後を示す即、郷および既の漢字が共に食の字を含んでおり、それに人の形を加えて、各々の意味を表す漢字が成立したことを示した。『各論』は各頁の上部に、160余りの代表的な食材の絵を載せている。いずれも実物や写真を見てスケッチしたもので、かなり時間をかけて描いたものである。

池添 博彦 (8期)