それは2021年春、同期の東京経済大学教授のシバタ君の実家で、ある〝古文書〟が発見されたことから始まった。半世紀以上の歳月を経て、薄茶色の変色したそれは、われわれ19期が1965年2月に受けた中学入学試験の問題だった。試験当日、ご母堂が購買部で購入し、保管されていたようだった。
「それ、同期会に使おう!」。シバタ君から一報を受けた同期会の万年幹事のカツミは出し物に使おうと企み、あの男からの声かけを待った。同じく万年幹事で、最も重要な会場の提供者である横浜駅西口のデザイナーズホテル「HOTEL PLUMM」の社長兼総支配人のヒラヤマ君だ。
年が明け、コロナ禍も沈静化しつつあった2022年春、待ちに待ったヒラヤマ君から声がかかる。「(去年できなかった)卒業50周年記念と古希祝いの同期会をやろう!」。開催は半年後の9月3日(土)17:00~と決まった。
幹事の活動開始。19期の同期会では、お抱えバンド的存在となった、元軟式庭球部メンバーが中心の「SUS4++」の演奏が定番。「今回もやる?」。SUS4++でマネージャー役を務める国土交通省の元技官の鉄ちゃんで、60年以上の歴史を持つ「鉄道友の会」の第8代会長に就任したばかりのサエキ君にメールをすると、二つ返事で快諾の返信。SUS4++も練習を開始した。
メンバーはサエキ君、脳外科医院を開業するウエダシンスケ君、国立がんセンター元部長で内科医のヨコタジュン君、起業家のアキヤマ君のオリジナルメンバーに、東北大学名誉教授(超音波ナノ医工学)のウメムラ君と栄光学園元副校長のイイノ君の2人が加わっている。全員理系だ。
そして、9月3日当日、会場に集まった55名の同期。5年前の前回と大きく変わったのは、多くがリタイアし、名簿の職業欄が空欄ばかりになったことで、「古希」という言葉の響きを実感した。
春の開催決定から半年経って、予期せぬ第7波の最中で開催となったため、300人収容の宴会場に円形テーブルを設置した着席方式となった。席と席の間はアクリル板で区切り、料理は小皿に分けて盛り付け、大皿料理はスタッフが取り分ける……等々、コロナ対策を徹底したヒラヤマ君はさすがプロフェッショナル!
宴は進んで、1つ目の出し物のSUS4++の演奏。演奏曲は「 A whiter shade of pale(プロコルハルム)」「 Here comes the sun (ビートルズ)」「Hotel California((イーグルズ)」「The impossible dream (ラ・マンチャの男より」 の4曲と「栄光ハイ」。「The impossible dream」は高校時代、英作を担当していただいたブルカ神父が授業で使った曲で、2017年に帰天されたブルカ神父への追悼の思いが込められた。
さらに宴は進んで、いよいよ中学入試問題の披露へ。会場のスクリーンに映し出された問題の映像に一同興味津々。1次試験の問題は、国語、算数、理科、社会と4つあったが、19期のときの2次試験は3つしかない。なぜか。理由は不明だが、われわれの入試では国語と社会が合体していたのだ。
問題は俳句が題材で、国語系では日本で俳句が生まれた背景や「古池や……」をはじめとする例示された俳句の解釈を記述式で問う。社会系では俳句を生んだ日本の気候の特色について、その理由を記述式で問う。すると、国交省の元河川局次長のヒビ君が手を挙げて発言を求めた。
「そのときのことははっきり覚えていて、最初、視聴覚教室で境野先生から俳句についての話を聞き、教室に移動して問題を解いた。ボクは『梅一輪梅一輪ほどのあたたかさ』という句の解釈について、1つに絞れず、すごく悩んで悩んで解答した」
人間、苦しんだことは半世紀経っても忘れないのだろう。57年前の意表を突かれた出題は、受験テクに長けているより、地頭で考えられる生徒を選抜しようとしたのだろうか。その割には19期はいろんな意味で〝出来〟はよくなかったけれど
算数の問題については、数学好きだった前出のサエキ君に12歳の小学生になったつもりで事前に解いてもらっていた。その解答を披露。問題はーー
50円玉、10円玉、1円玉を合わせて596円あります。このうち、1円玉の枚数は50円玉の枚数の9倍です。このとき10円玉は何枚になりますか。
サエキ君の解答をかなり簡略化して紹介するとーー
<途中省略>
ア.十和田湖 イ.芦ノ湖 エ.河口湖 オ.宍道湖
1.本州にある 2.火山活動でできた 3.川がせきとめられてできた
ア~オのうち、1つを除いて、他の3つに共通する性質を1~3から選び、除くものも答える。全15問のほとんどを出席者は答えられず、12歳の小学生より70歳のほうがはるかに社会知識が乏しいことを自覚し、これからはボケないよう、リカレントの必要性を痛感して閉会とあいなった。
なお、サエキ君の解答に対し、進学塾を経営し今も中学生に数学を教えるのが楽しくてしょうがないタナカケンジロウ君から、59□+10△=596のように、硬貨の枚数に□△を使った式で解く別解が寄せられた。そこで、同期の連絡用メーリングリストで紹介したところ、東北大学で応用物理学を研究してきた物理学者のミヤザキ君(同期で一番数学が出来た)が、59=60-1を使って(60□+10△)-□=596とする別解で応酬すると、サエキ君が「式の中に□や△を使っているのは、x や y を使うのと同じで、『代数』となってしまっている」と反論するなど、場外での延長戦が繰り広げられたのだった。
勝見 明 (19期)