ホーム活動報告・会報記事学園だより卒業生インタビュー 廣川 信隆氏(12期)

学園だより卒業生インタビュー 廣川 信隆氏(12期)

現在東京大学で医学部特任教授を務めていらっしゃる廣川信隆氏(12期)が「卒業生インタビュー」で来校されました。廣川氏は分子細胞生物学の分野において数々の業績を上げ、現在も第一線で研究されています。当日、インタビューとは別に本校生徒が質問する機会をいただきました。その際の様子を抜粋してお伝えします。

研究者はもっとも幸せな人種

高校卒業後、医者になりたくて東京大学の医学部に進学しました。当時の私は医者とは臨床医、病気の患者さんを治療する町医者のようなものと思っていました。それで医学部では入学後すぐに臨床医学を教えてくれるものだと思っていたんですけど、最初の二年間は基礎医学を習うんですね。基礎医学っていうのは人の体・細胞・組織・臓器といったことを勉強する学問です。しかし、勉強していくうちに、実は人の体はまだ分からないことだらけだということが分かりました。驚きでした。当時、完璧に仕組みが分かっていたのは抗生物質くらいで、正常な体の仕組み、病気の診断、治療については分からないことだらけで、その時そういう未知のことを解明していく研究者というキャリアがあることに初めて気づいたんですね。それまでの私にとっては、高校で習う数学、物理、生物、それから文系の歴史や地理なんかの勉強は医者になるための関門を突破するためのものでしかありませんでした。基礎医学を習ったときにはじめて「学問」に出会いました。数学には数学自体の面白さ、歴史には歴史のその学問自体の面白さというものがあるということに気づいたんです。
私にとって初めて、知らないものを知りたいという欲求、これは人にとって根源的な欲求ですよ、それに初めて目覚めたんです。人の体の仕組みについてまだ分からないことを知りたい、それは自分自身を知りたいということにも繋がります。そういう欲求が人には必ずあるんです。誰も知らないことを発見して、それが教科書に載った時の喜びは経験しないと分かりません、何ものにも代えがたい。お金では買えないものです。私は研究者っていうのは芸術家と並んで、最も幸せな人種だと思います。
自分の知りたいと思うことを若いジェネレーションの仲間と一緒にいろんな実験をして結果を解いて、そして発見していく。それが積み重なって、歴史に残っていくんです。けっして贅沢はできないけれど、どうにか生きていくことはできます(笑)。それまで無かったものを創り出す。一つの実験で何十回と失敗をしますが、それでも止めないのは、この発見の喜びが原動力です。

栄光で培われたもの

私が栄光に入ったのは昭和33年。振り返ると栄光の生活で他の学校と違ったのは、グスタフ・フォス校長の週に数回の朝礼演説。「あなたたちはベストを尽くして生きろ」って言うんです。それから中間体操。冬の寒い中でも外に出て上を脱いでやる。ドイツ式のスパルタ教育の名残だったのかもしれませんが、これは心身ともに良かったと思っています。
授業は非常に自由闊達でした。生徒が自由に発表できる環境でした。当時は外国人の神父さんがたくさんいらっしゃって、文化的に見ても自由な雰囲気の中で学びました。非常に国際色にあふれる学校でした。凄く良かった。研究者になってから5年間ほど米国にいたことがあって、初めはカリフォルニア大学、次にセントルイスのワシントン大学の医学部で研究をしていました。その後、母校の東京大学に呼ばれて帰ってきましたが、今や全ての職種がグローバルなので、栄光で培われたインターナショナルスピリットっていうものは将来必ず役に立ちます。インターナショナルが加速していく時代で、栄光学園が持っている強みが活きてくると思います。また、社会倫理っていう科目があって、倫理、それからある種の哲学ですね。人はどうやって生きていくのか。これは今から考えると凄く貴重な経験でした。というのは当時公立の中高では価値観の教育っていうのはできなかった。ずっと自分の中でどうやって社会の中で生きるべきか、ということを考えています。

「生徒の感想より」

科学に対する愛

廣川さんのお話からは科学に対する愛が伝わってきて、研究の魅力を肌に熱気を感じながら聞く、本当にスゴイ機会だった。僕も将来は科学研究に携わりたいと考えているため、その道のずっと先でここまでお仕事を楽しみ、充実した生活を送っていらっしゃる先輩とお話することができたことは、これからの自分の人生の励みになると思う。また、廣川さんも栄光生時代はハンドテニスにはまっていたそうである。毎日、校舎2階のベランダから見えるハンドテニスをしている中学生の中からも将来日本の先端を行く人がたくさん生まれるのだろうと思うと、身に染みて、僕ら中高生が持っている可能性の大きさを感じた。日々見識を深めるべく努めようと思った。

T.K.君(高2)

深く影響を与えた栄光の教育

私達の大先輩にあたる廣川先生のお話を直接に伺うという貴重な機会を得ることができました。科学界の権威ある雑誌の実物を見せて頂きました。その表紙を飾る電子顕微鏡の写真は先生が研究で撮られたというもので、大変色鮮やかできれいでした。栄光学園の社会倫理の教育を重じる伝統がご自身に深い影響を与えてきたという先生の言葉が印象深かったです。卒業して何年も経った後、私には母校がどう見えて、何を振り返るのだろうかと考えました。

R.K.君(高3)